Hさん(75歳)には3人のお子様いらっしゃいますが、それぞれ結婚して独立したため、奥さんと2人暮らしをされていました。
Hさんはお元気でしたが、奥さんは転んで足を骨折してから床に伏せることが多くなってこられました。
老後のことが心配になり始めたころ,長男から「お母さんの介護のこともあるし,2世帯住宅に建て替えて同居しよう」との提案があったそうです。
Hさんは渡りに舟とこれに応じ,2世帯住宅に建て替えました。
建築費は半分をHさんが蓄えから出し,残り半分は長男がローンを組まれました。
新築後、しばらくしてたまたまHさんが預金通帳を市役所に置き忘れるということがあったそうです。
それを知った長男は,「何かあっては困るから,実印や権利証,預金通帳は俺が預かる」と言い出したのです。
Hさんは、同居して長男夫婦に何かと世話になっている負い目もあることから、言われるままに,それらを長男に預けました。
しかし,実印や預金通帳などを預けたとたんに,Hさんは長男夫婦がなにかよそよそしくなったように思えてきたのです。
そればかりか,長男は急に外車を買ったり,頻繁に海外旅行に行くなど生活が派手になってきました。
Hさんはできるだけ不満を口にしないよう心がけていたつもりでしたが、つい「おまえらは,このごろよそよそしい。母さんの世話も今ひとつ親身でない」と言ってしまったのです。
その後は長男の妻の態度がとげとげしくなり,Hさんの奥さんへの世話も乱暴になって,Hさんの奥さんも怯えるようになられたのです。
Hさんは,このままではお互いのためにならないと思い,長男に,自分たちは有料老人ホームヘ入るので、預けた実印、権利証、預金通帳を返してもらえるように言いました。
しかし,長男は「今さら世間体が悪い」と応じてくれません。
長女に相談したところ,長女は「お父さんたちの財産をお兄さんが勝手に使っているんじゃないの」といって長男に返還を迫ったが,埒があかないばかりか,兄妹の仲もおかしくなってしまいました。
最近では「兄さんの顔も見たくない」と言ってHさん宅へ寄りつかなくなってしまいました。
良かれと思って2世帯住宅にしたところ、同居をきっかけに親子、兄妹の関係にひびが入ってきたケースです。
最初はそんな気が無かった長男も,父の財産を自由にできるとなると,つい手を付けてしまうようになったのかもしれません。
それは誤解かもしれませんが,このままではお互いに疑心暗鬼になるばかり。
Hさん,長男,長女の三者で今後の財産管理,Hさんの妻の介護について,よく話し合うべきでしょう。
話し合いがつかなければ,第三者を間にいれることも考えるべきです。
Hさんの状態は,まだ「補助」にも至らない程度であろうと思われました。
そこで,Hさんとしては将来に備えて専門家と「任意後見契約」を締結しておくことを考えました。
そして、安全のために,今から任意後見受任者に預金通帳や実印,権利証等の保管を依頼しておくことにされたのです(これは,任意後見契約とは別の、委任ないし寄託契約になります)。
財産関係を親子関係や介護の問題と切り離すのです。
ただし,三者の話し合いは引き続き継続する努力が必要だと思われます。